地域における大学の役割
2009年11月16日
今、求められる、「地域としての経営」という視点
今、日本にとって「地域」が重要なキーワードだ(注)。地域間の格差も顕在化し、疲弊した地域に政策の焦点を当て、手を差し伸べることが喫緊の課題となっている。しかし国内では勝ち組と言われている地域でも、東アジアのダイナミズムに視野を広げて見ると、必ずしも安穏としていられない。むしろ危機感を持たなければならない事態が進行している。
我々は好むと好まざるとにかかわらず、国境を越えた激しい地域間競争の真っ只中にいる。東アジアではシンガポール、香港や中国の沿海部、韓国などの地域が、し烈な競争を行っている。人材と企業を呼び込む競争だ。その現実に目を覆い、国内だけの心地よいぬるま湯に浸かっている余裕はない。しかし日本の現実はどうであろうか。残念ながら視野が国内だけではないだろうか。
国際的に競争力のある地域の実態を見れば、洋の東西を問わず、中核の都市を中心として、例えば半径50キロから100キロ圏内が一つの経済圏として有機的にネットワーク化している。そしてそれが一つの競争単位になっている。これらを「メガ・リージョン」と呼んでいる。そしてメガ・リージョン同士が国境を越えて人材と企業を呼び込む、し烈な競争をしている。日本でも例えば、北部九州、京阪神、グレーター・ナゴヤ、東京などの経済圏がそうだ。そこでは国境を越えた視野をもった「地域としての経営戦略」が必要になる。
(注)「地域」という言葉は、英語で「エリア」と「リージョン」で面的な広がりが異なるが、ここでは広域のリージョンを前提に考えたい。
人材戦略に重点を置き、そのために大学の国際競争力を高める。
そのような「地域として経営」するプレーヤーは地方自治体だけではない。経済界、NPOなど多様な主体が共同で経営しているのが地域である。そして大学もその重要なプレーヤーの一人である。世界の競争力ある地域には、いずれも国際競争力ある大学が存在する。大学は地域にとって、企業の人事部だ。人事部は人材を採用し、人材の能力開発を行う。どれだけ優秀な研究者、学生が引き寄せられるかという大学力が地域の競争力に直結する。
グローバルな企業の経営戦略において、日本は今後、差別化戦略の拠点、付加価値を高める拠点となっていく。そういう観点から、研究開発拠点の誘致は地域戦略にとって今後ますます重要となる。そこで重視されるのが、良質な研究人材である。企業は人材のいるところに引き込まれることから、まず必要なのは人材対策である。その成功例はシンガポールのバイオ・ポリスだ。国が2千億円以上をかけて整備した研究開発拠点には2千人の研究者が研究している。そしてその半分が外国人で、世界的な研究者が数多く招聘されている。それで近くには欧米の大手製薬メーカーがこぞって進出している。今やシンガポールは「バイオ分野における世界的な集積」として圧倒的な国際競争力を有している。そのカギになるのが徹底した外国人研究者の誘致なのだ。そこで大学の果たす役割は大きい。シンガポール国立大学は欧米、中国、インドなどさまざまな地域から最先端の研究者、留学生をスカウトしている。生活費、学費も免除され、博士号取得者が国の機関に勤務すれば国籍まで付与される。カギは、「外に開かれた多様性」である。日本ももっと外国人研究者、留学生に焦点を当てるべきだろう。
「ニシンとナマズ」という、たとえ話がある。
ニシンは大変腐りやすい魚である。この腐りやすいニシン漁のポイントは、沖合いで捕ったニシンを、いかにして鮮度を保って活きのいいまま港に持って帰ってくるかだ。あるとき、ある漁師の採ってくるニシンがいつも活きがいい。その秘密は何か。漁で採った魚を入れる船の生け簀の中に、何匹かのナマズを入れておいたのだ。そのことによってニシンが緊張するのだという。異質な者がいることによる緊張感によってニシンの鮮度が保たれる。異質な者が一緒にいることによるある種の緊張感、これは人間社会にも通用する。さまざまな留学生とともに学び、研究することは日本の大学生にとってもよい刺激になる。日本の社会、組織にみられる共通の大きな問題は「同質社会の甘え」である。
さらに言えば、外国人研究者、留学生を「受け入れる」のではない。「獲得する」のである。言葉が意識にも影響する。決して受け身ではなく、積極的に獲得に動かなければ、海外の競争相手に伍していけない。そしてその際、それぞれの大学が個々に取り組んでも限界がある。地域にある複数の大学がそれぞれの強みを活かして、共同でネットワーク力を発揮すべきであろう。単位の相互互換ももっと大胆にあってもよい。大学の壁を越えて地域としての横断的な取り組みも必要だ。グレーターナゴヤにおいても、私は「大名古屋大学」として取り組むべきことを提唱している(現在、この名称は別の意味で使われてはいるが)。そして地域の産業界の協力も得て、海外からの人材を発掘するのである。人材獲得版の産学連携である。
行政、産業界、大学などが一緒になって経営する地域。グローバル経済の下では、そういう地域こそがこれから強くなるのではないだろうか。
*出所の記載がないものは新聞のコラムとして寄稿したもの
