細川昌彦 Masahiko Hosokawa

現在、中部大学 中部高等学術研究所 教授に就任しております。
大学とともに、グローバル企業、自治体などの顧問、アドバイザー、そして講演などもさせていただきながら、それを糧に転換期をむかえたこれからの地域、日本を考えていきたいと思います。

最新記事

  • 2018年01月18日 [ コラム ]

    対中「有志連合」日本主導に期待 (産経新聞 2018.1.14)

  • 2017年12月23日 [ コラム ]

    米中の「一方的制裁」の応酬という悪夢  ~中国の対日「微笑み外交」はその裏返し

    世界貿易機関(WTO)の閣僚会議が閣僚宣言を6年ぶりに採択できずに閉幕した。後には「WTOの機能不全」という先の見えない課題だけが残ってしまった。また一歩、国際的な秩序が壊れていくようだ。


    最大の原因は、自国優先を掲げるトランプ政権がWTO批判を繰り返すだけで、意見集約して国際秩序を形成しようとの意欲が全くなかったことによる。

    WTOは全会一致が原則で、新興国の抵抗によって、時代に応じたルールの見直しが全く進まないことへの苛立ちもあろう。またWTOの紛争処理で裁定結果に米国が不満を募らせているとの指摘もある。

    確かにその通りだが、本質的な問題はそこではない。


    内政重視から米中衝突のシナリオへ突入


    それはトランプ政権の最大の関心が、国内政治での戦いに勝つことにあることだ。それが米国の国際的な立場を弱めることになっても二の次だ。当面の目標は、来年秋の中間選挙に向けて、自らの支持層が抱く不満に目に見える形で応えて支持基盤を固めることにある。


    先般のエルサレムの首都認定も、キリスト教保守派の支持層固めといった内政優先が、外交的に合理性のない判断に至った。世界経済に向き合う米国通商代表部(USTR)のライトハイザー代表の関心も、同様に内政にあるようだ。


    今、ワシントンではライトハイザー代表の威勢のよさを指摘する者が多い。「出番がやってきた」との高揚感からだろうか。外交不在の中で、国務省の無力感が取りざたされているが、これとは対照的だ。

    NAFTA見直し交渉が難航する中で、ライトハイザー代表は中国を成果を上げるターゲットに見据えているようだ。トランプ大統領に対しては、大統領候補としては選挙戦で中国に厳しいことを言っていたにもかかわらず、実際のところは何もしていないことへの不満が対中強硬派の議会の中にも出てきている。先般のトランプ訪中での総額28兆円の「張りぼて商談」だけではさすがに成果とは言えない。中間選挙に向けて、鉄鋼問題などで内陸部の白人労働者層の不満に向き合うことも必要なのだ。


    しかしWTOでは目に見えた成果は期待できない。自国の法律に基づく関税引き上げや輸入差し止めといった、米国単独での一方的制裁しかない。今回のWTO閣僚会合でしきりにWTOの機能不全を訴えたのも「来るべき一方的制裁もやむなし」との大義名分への布石だろう。米国が中国での知的財産権侵害に対して米国通商法301条による制裁を科する公算が大きい。そうすると、中国も黙ってはいない。米国に対する報復策を講じてこよう。例えば、米国からの大豆の輸入制限が取りざたされている。その結果、米中間で、いわゆる一方的制裁の応酬になる。


    ただし、それが米中貿易戦争というほどエスカレートしていくと考えるのは早計だ。米国企業にとって中国市場でのビジネス展開や中国からの調達が死活問題になるほど、相互依存関係は深化している。トランプ政権でも影響力の大きいゴールドマンサックスなどの金融資本も黙ってはいない。中国によるワシントンでのロビーイングも強力だ。中間選挙に向けて、国内向けの対中強硬を「米中間の小競り合い」というレベルでマネージしようとする力も働くだろう。


    中国の対日微笑み外交は「米中関係の従属変数」


    共産党大会を終えて、習近平主席の対日外交が微笑み外交に転じたとの指摘されている。そして日中平和友好条約締結40周年の来年に向けて日中関係は改善していくというのが大方の見方である。習近平体制の権力基盤の強化など、その要因はいくつかあるが、ここでは米中関係が大きく影響していることを指摘したい。


    中国はトランプ訪中を破格の大歓待と大型商談で一応乗り切ったが、その後の米国国内の動向から米国の対中政策は厳しい見通しであることを中国側も察知している。

    その結果、日本との関係は改善しておき、日米の対中共闘を揺さぶるといういつもながらの思考パターンだ。


    これまでの歴史を振り返ってもそうだが、「日中関係は米中関係の従属変数」という要素が大きいことを忘れてはならない。従って、関係改善は歓迎すべきことで、これを機に建設的な対話をするチャンスと捉えるのも大事だが、これを永続的なものと楽観視すると見誤る。日本企業にとって注意を要する点だ。


    一方的制裁という「悪夢の再来」か?


    日本にとって米中による一方的制裁の応酬は最悪のシナリオだ。それは日本が巻き込まれるかどうかの問題ではない。日本はかつて80年代には米国通商法301条などによる一方的制裁のターゲットとされて、米国の圧力に向き合い続けてきた。その悪夢から解き放たれたのが95年のWTOの成立と、それに伴う一方的制裁の禁止、WTOの紛争処理の整備であった。しかしその悪夢が再来しようとしている。

    関税引き上げや輸入差し止めといった一方的制裁は、自国の市場が大きい国ほど力を発揮する。米国や中国がそれだ。いわば「市場という力」によるパワーゲームなのだ。むき出しの利害のぶつかり合いだ。それに対して、そのような力を背景にできない日本のような国は、ルール重視と叫ぶことになる。日本が同様のポジションの豪州、欧州と連携を取る所以だ。


    米国が気づかなければならないのは、中国が「一方的制裁の権化」だということだ。レアアースの規制しかり、最近の韓国企業に対するTHAAD配備への経済報復しかりだ。これを自制させなければならないにもかかわらず、かえって中国に一方的制裁の口実を与えることになりかねない。80年代は一方的制裁を振りかざすのが米国だけだからよかったが、今やそうでない。80年代の成功体験をもって行動するライトハイザー代表は、その危うさに気づくべきだろう。


    なお中国による韓国に対する経済報復に対しても、本来、毅然とした態度で一方的制裁に反対しなければ、このような中国の報復が常態化しかねない。しかし肝心の韓国が先般の中韓首脳会談で中国に屈服するばかりか、対日歴史問題で共闘する姿勢で中国に擦り寄っている。文政権がしっかりさえしていれば、来年予定されている日中韓サミットで日韓が対中共闘すべきところを、逆に日韓が分断されているという致命的な状況なのだ。


    日本は「対中有志連合」で米国繋ぎ止めに奔走


    日本にとって今回のWTO閣僚会合の最大のテーマは米国をWTOに繋ぎ止めることだった。そのためには最大の懸念である中国問題について、WTOの場で米国も巻き込んで共同対処する道筋を作ることが不可欠だ。そうでなければWTOの崩壊にも繋がりかねない。そういう危機感を欧州、豪州とも共有し、過剰生産や国有企業への優遇、不透明な補助金などを是正させる仕組みや電子商取引分野のルール作りなどに日本は奔走した。ルール不在のパワーゲームになれば、大市場を持った中国が喜ぶだけだ。


    残念ながら国内政治にばかり目が行く米国には未だその思いが届いていないようだ。しかし日本が努力した方向は間違っていない。実利優先の米国を世界秩序に繋ぎ止めるためには実利を感じさせなければならない。今後も日本はそのための仕組みづくりを欧州、豪州などを巻き込んで主導すべきだろう。

    幸い、先般のTPP11の大筋合意に至る参加各国間の調整においても、日本が誠実に調整役を果たしたことは各国からも高く賞賛されている。明らかに「善意の仲介役」としての役割を期待されているのだ。


    来年、トランプ政権はますます内向き志向になって、米中貿易衝突も予想されるだけに、日本の出番は増えるだろう。

  • 2017年12月23日 [ コラム ]

    中国「国家資本主義」の抑止策が日本主導で始動~インフラとデータを巡る戦い~

    (日経ビジネスオンライン 2017.11.30掲載)

    先週、日本の経済界の訪中団が李克強首相や国家発展改革委員会首脳などと会談した。久々に日中関係が改善の兆しを見せている中で、日本の経済界も今後のビジネスチャンスに内心期待を抱きつつの訪中であった。最大の関心は一帯一路がビジネスチャンスになるかだ。しかしそこには大きな課題も横たわっている。

    一帯一路には選択的協力

    そもそも一帯一路に対しては、ビジネスチャンスを期待する日本企業も、どう対応していいか決めかねているのが正直なところだ。

    一帯一路に込められた、中国の覇権主義的な意図は明確である。従ってスリランカなどに見られる、軍事的意図での港湾整備などは警戒すべきだ。またタイなどでの鉄道整備のように、日本企業が中国企業と激しく受注を競っている分野では協力できないのは明らかだ。受入国自身も日中を競わせるしたたかさを持っている。

    しかし、これらの分野以外で、例えば、環境・省エネなどの分野では、第三国で日中が協力するビジネスを展開していくことは有益だろう。一帯一路に対しては、分野ごとに是々非々で「選択的に協力」するアプローチが必要だ。

    問題は、その際の中国の手法が懸念されることだ。今回の訪中団も中国側に対して、協力できる条件として、グローバルスタンダードに則った、透明性、開放性、経済性、採算性を充足することを求めた。

    APECに国際ルールの布石を打つ

    こうした中国の動きを牽制するためには、単に日本単独で注文をつけているだけでは埒が明かない。中国の手法を牽制するための何らかの「国際的なルール」が必要だ。しかもそのルール策定に中国自身も参加して、関与していることがポイントになる。

    実はそのための仕掛けができたのが、直前に開催されたAPEC首脳会議であった。

    そこではインフラ整備への協力について、「質」を確保するための仕組み作りが合意されたのだ。これは日本が提案を仕掛け、米国、ベトナムを共同提案者にした。明示的には言わないが、明らかに中国の「一帯一路」を牽制したものだ。

    例えば、途上国の返済能力を超えるか貸し込みを禁止する。中国がスリランカの港湾整備で、多額の借り入れの返済として99年の使用権を得て、軍事使用されることが懸念されているが、類似の動きは各地で見られる。

    入札における開放性、透明性の確保も重要だ。日本をはじめ先進国はOECDのガイドラインによって、アンタイド(ひも付きにしない)が義務付けられているにもかかわらず、これに縛られない中国は中国企業からの調達をタイド(ひも付き)にするのが通常だ。国内生産の過剰能力のはけ口にするとの中国の思惑も見え隠れし、要注意だ。

    また中国の場合、通常ビジネスとして成り立ち得ないような条件の案件でも、国有企業、国有銀行が政府支援を得て、案件を強引に獲得していく。行動基準が政治的な影響力を強めるといった、ビジネスとは別次元の思惑なのだ。

    今回のAPECでは、こうしたものを抑制するルールを来年のAPECでの合意を目指して、検討することが合意された。国際ルールへの大きな一歩だ。

    まず、昨年のG20で「インフラ整備の質」というコンセプトを日本が国際的に初めて持ち出し、中国にもこのコンセプトを認めさせた。それが第一歩だった。そしてさらに今回のAPECでは、融資する手法をも規制対象にしようとしている。中国を念頭に置いた、日本の戦略が着実に前進しているのだ。

    多くの米国企業もこうした中国のインフラ輸出のあり方には深刻な危機感を持っている。例えば、途上国での発電所案件で発電タービンの輸出を手掛けるGEもその一つだ。ベトナムなど受入国側でも強引な中国の進出には警戒感も出てきている。

    そこで日本が米国、ベトナムを巻き込んで、APECでの共同提案者にできた。それは国際的に連携して中国を牽制する戦略として大いに評価できよう。

    中国の新法はIoTをも規制する恐れも

    デジタル情報についても中国の規制の動きが懸念される分野だ。今回の経済界による訪中団においても、こうした深刻な懸念を中国当局との会談において伝えた。民間企業が企業活動によって取得したデータなどのデジタル情報の流通を国家が規制しようとする動きがそれだ。

    本年6月、中国ではインターネット安全法が施行された。制度の詳細は現在策定中だが、運用次第では、外国企業に対して、サーバー設置の現地化を義務付けたり、国境を越えて情報を移転することを規制したりする恐れもある。これは電子商取引だけの問題ではない。産業界全体に及ぶ大きな問題なのだ。

    今や製造業はIoT(モノのインターネット)への取り組みが競争力の源泉になりつつある。そこではビジネスで得た顧客データや工場データを収集、活用するために、サプライチェーン全体のデータの一元管理が欠かせない。従ってグローバル企業にとって自由なデジタル情報の流通が確保されることが不可欠なのだ。特に、巨大な生産拠点、市場である中国での自社内のデータは企業にとって重要だ。それが中国当局の運用次第では制約されかねず、産業界にとってグローバルな企業活動が妨げられるとの大きな懸念になっている。

    この問題も日本の経済界だけが申し入れて、中国側の対応が変わるわけがない。国際的な連携で中国を追い込むことが必要だ。もちろん米国の産業界も深刻な懸念を表明している。そこでこの問題を中国も参加する多国間のルールの俎上に載せることが重要になってくる。

    具体的には、中国も参加している、グローバルな枠組みであるWTOの場に日米共同でこの問題を提起している。今後は新たにWTOのルールに取り入れて、WTOを強化していく戦略が大事だ。

    中国の国家資本主義にどう向き合うか

    「中国の国家資本主義にどう向き合うか」がこれからの世界が直面し続ける大きなテーマだ。今回の日本の経済界による訪中団にとっても、これが本質のテーマであった。

    特に注目すべき分野は、インフラとデジタル情報だ。これらはいずれも今後の成長分野で、中国の国家資本主義の動きが顕在化している。

    にもかかわらずトランプ政権が短期志向・内向きであるのは極めて危険な状況だ。日本は単独で中国に注文をつけたところで見向きもされないだろう。日本は分野ごとに米国を根気よく巻き込んで、国際連携の下に多国間のルール作りで中国を牽制していくべきだろう。そういうせめぎ合いがまさに始まっているのだ。