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  • 2017年08月09日 [ コラム ]

    今秋、直面する通商交渉の大バトルにどう向き合うべきか

    『今秋、これまでに積み残してきた通商問題の課題に、日本政府は一気に取り組むことになる。米国抜きTPPTPP11)、RECEP、日米経済対話、日欧EPA……。高いハードルを乗り越えるには、外務省主導の従来型の交渉スタイルではなく、官邸主導の“TPP型”の布陣を組み、本気度を示すことが欠かせない。』

    ****

    この秋、通商分野がダイナミックな動きになりそうだ。具体的に挙げてみよう。

    1. 米国抜きの環太平洋経済連携協定(TPP11)については、11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会合で方向性を固めることになる。それに向けたカギとなるのが、「米国抜き」に難色を示すベトナム、マレーシアなどのメンバー国を日本が主導して説得することができるかどうかだ。TPP11の結束を維持できるかどうかは日本のリーダーシップにかかっている。

    2. 東アジア経済連携協定(RCEP)については、どこまでのレベルのものにするかを巡って、日中間の綱引きが展開されている。この秋の閣僚会合が勝負どころだ。早期妥結を望む東南アジア諸国連合(ASEAN)各国を説得して、日本が目指す非関税分野も含めた、質の高い内容に誘導していけるかどうかの正念場を迎える。

    1. 日米関係では、11月のベトナムでのAPEC首脳会合の前後にトランプ大統領が訪日する可能性が高い。そうなると、その前の10月に開かれる日米経済対話において、日米間の摩擦の種をマネージすることができるかが大事だ。米国畜産業界の不満などを背景に、2国間の自由貿易協定(FTA)を求める米国からの圧力が高まる中、これにどう対処するか。

    1. 大枠合意した日欧経済連携協定(EPA)も、紛争処理メカニズムなど課題が未解決である。これらの積み残しの難題を解決して最終合意に至ることができるか。

    これらは相互に密接に連動している。TPP11が結束できそうならば、RCEPもより質の高い内容を求めやすくなる。将来米国がTPPに戻ってくる受け皿が用意できそうならば、米国の産業界をTPPへの復帰を志向する可能性も出てこよう。日欧EPAの合意は、欧州との競争不利を避けようとする国々に対してはTPP11への誘因にもなる。

    いずれにしても日本政府は、こうした全体像を俯瞰して、この秋からの通商戦略を立てることが必要である。そのためには、日本政府としても各省バラバラ、各テーマバラバラではなく、司令塔がしっかりとした組織体制を作ることが不可欠だ。

    そういう視点で今回の内閣改造と官僚の幹部人事を評価してみたい。

    ***

    伝統型からTPP型に通商交渉をシフトせよ

    これまでの通商交渉では、伝統的に外務省が各省の取りまとめをして交渉してきた。しかし、これでは経産省、農水省など対等の役所同士の協議となって、外務省に効果的な調整を期待できない。

    外務省も相手国との交渉をまとめることを最優先にすることから、各省からは弱腰の交渉姿勢に映り、外務省に対しては当然疑心暗鬼になる。政府として一体感からはほど遠いケースもこれまでもしばしば見られた。そうした状況から、昔から米通商代表部(USTR)を倣って、「日本版USTR」を創設せよとの意見もあったほどだ。

    こうした中、TPPは重要性が格段に大きいことから、安倍内閣になって特別の体制を作ることとなった。まず総理から全権委任を受けた甘利経済財政担当大臣が担当した。そしてその下に内閣官房に鶴岡首席交渉官をはじめ各省から100人規模の精鋭部隊が派遣されてチームを組んだ。日本の通商交渉の長年の課題であった、「司令塔不在」「縦割りの弊害」から脱却することが狙いだ。

    大臣自らの国内調整での重みと交渉相手への気迫、更には、チームとして同じ船に乗っているとの一体感があったと証言する者も少なからずいる。日本の通商交渉の歴史上特筆すべき布陣だろう。その結果、日本がTPP交渉に参加してからは、その出遅れを一気に挽回した。日本が交渉の取りまとめで主導権を発揮し、他国から「日本がいないとTPPはまとまらなかった」とまで言わしめることとなった。

    ***

    日欧EPAでは最終局面まで本気度が足りなかった

    それに対して日欧EPAではどうだったか。

    実は当初から日欧EPAに関しては、日本、欧州連合(EU)双方ともに優先度が低かった。そこで日本側もTPPと違って、伝統的な外務省取りまとめ方式での交渉体制であった。率直に言って、4年間交渉に顕著な進展がなかったのは、交渉への本気度が足りなかったからだろう。

    状況が大きく一変したのが今年に入ってからだ。きっかけは、トランプ大統領による、TPP離脱表明と英国のEU離脱だ。保護主義への歯止め、EUの結束など政治的な思惑が日、EU双方を急速に合意に向かわせたのである。

    しかもG2020カ国・地域)での首脳レベルの政治的メッセージを狙って、G20を期限とするゴールの設定で双方の首脳の思惑が一致したことも大きい。日本でも官邸の強い意向を受けて、外務省もやっと本気で動き始めた。大枠合意はこうした政治状況の変化と政治的決断とによるものなのだ。それがなければ、伝統型の通商交渉の問題点を引きずったままで交渉が漂流しかねないのが実態であった。

    ***

    日欧EPAはチーズも自動車も今一歩か

    それは妥結結果に見て取れる。大枠合意した日欧EPAで最後まで交渉の焦点だったのが、チーズと自動車だった。日本国内では、「自動車のためにチーズで譲った」と評する向きもある。果たしてそうだろうか。実態は外務省による「総合調整の深掘り」が十分なされないまま、早期妥結を優先したようだ。その結果、自動車のゲインもチーズのロスもそこそこの、双方が合意しやすい内容になっている。

    EU側の関心事項であったチーズの関税削減を見てみよう。

    カマンベールやモッツアレラなどソフト系チーズについて新たに低関税輸入枠を設定した。この枠内での関税率を徐々に削減して、16年目に撤廃する。その輸入枠は初年度2万トンから16年目に31000トンに拡大する。低関税での輸入枠が現在の2万トンから1.5

    倍に拡大するだけなので、影響は小さい。

    他方で、日本側関心の自動車はどうだろうか。韓国車は既にEUとの間で2016年から関税が撤廃されている。それを背景に猛烈な販売攻勢を欧州で繰り広げ、シェアが着実に増えている。日本メーカーの危機感から、日本政府にとって自動車が最大の焦点となっていた。結果は、EUが日本車に課している現在の10%の関税を、段階的に引き下げて8年目で撤廃するというものだ。

    確かに関税撤廃で韓国車との競争条件が対等になることは日本の自動車業界の長年の念願で、大いに評価できよう。確かに10%の関税がなくなるのは大きい。ただしそれが8年後というは遅すぎないか。自動車業界の熾烈な競争を考えると、この先8年の間にも韓国車はシェアを確実に伸ばしてくるだろう。確かにTPPでは米国の関税撤廃が25年であることに比べれば短いが、米国の関税は2.5%だ。それに比べEUは10%と高関税で、価格への影響は格段に大きい。

    最近は英仏が 2040年にはガソリン車やディーゼル車の販売を禁止する方針を打ち出したり、自動運転技術が加速的に進展したり、自動車産業を巡る変化のスピードはかつてとは比較にならないほど速い。米テスラや米グーグル、米アップルなどが自動車分野に相次いで参入しており、技術革新の激しいエレクトロニクス業界のそれにも匹敵するぐらいだ。8年も経てば業界の状況も恐らく激変しており、今回の合意内容がどこまで効果を発揮するか、かなり微妙だろう。

    分野ごとの交渉としては最大限の努力の成果であろうが、仮に交渉体制、交渉プロセスが「総合調整志向のTPP型」であったならば、もう一歩深掘りした違った結果を引き出せたのではないだろうか。

    ***

    この秋、通商の新布陣の本気度が試される

    問題は、これから本格化する通商問題の“秋の陣”だ。通商交渉の正念場を迎える日本は、TPP型の交渉体制を作ることが不可欠だ、と官邸も強く意識している。今回の内閣改造で任命された茂木新大臣の国際交渉力も期待されており、内閣官房には各省からの精鋭も再び呼び集められているようだ。日米経済対話についても、今回の各省の人事異動で、麻生副総理のもとに、財務、経産、外務からそれぞれかつての麻生内閣時に秘書官として麻生氏に仕えた次官級が勢ぞろいすることとなった。

    ただし、これら人材の配置という布陣は必要条件ではあるが、十分条件ではない。

    官邸の本気度があってはじめて、茂木・麻生両大臣の本気度につながり、それがそれぞれの官僚チームの一体感を生む。これがTPP交渉、日欧EPA交渉の教訓ではないだろうか。この秋は、この教訓を活かした戦いができるかどうか、注目される。

  • 2017年07月22日 [ コラム ]

    美術館はなぜデートスポットにならないのか?

    先日の新聞報道によると、観光庁、文化庁は訪日客をもっと増やすために、美術館、博物館の閉館時間を延長する取組みに力を入れるという。既に延長している美術館もあるが、さらに拡大していきたいとのことである。外国人観光客から要望も多いからだという。

    もちろん大変いいことではある。ただし訪日客の誘致が目的であっていいのだろうか。また閉館時間を延長するだけでいいのだろうか。

    もっと本質的なことを忘れてはならない。それは何か。

    ***

    街の賑わいを創る発想とは


    日本の国公立美術館では閉館時間を午後5時か6時にしているところが多い。これはいわゆる「お役所仕事」だからだろう。私は10年以上前から、せめて金曜の夜ぐらいは閉館時間を夜9時にしてはどうか、と言い続けてきた。それだけではない。コンサートホールもそうだ。コンサートの開演時間も日本は午後6時か6時半だが、欧米のように夜8時にしてはどうか、とも提唱してきた。

    その理由はこうだ。

    :

    平日のコンサートホールでは奥さま族ばかり楽しんでいるというのは日本独特の光景だ。そこで開演時間を遅らせると、会社帰りのビジネスマン、ビジネスウーマンも楽しめるようになる。欧米のようにコンサート開演前にプレ・シアター・ディナーも楽しんでからコンサートに行くことも可能だ。結果的に街での消費も喚起される。

    閉館時間が遅い美術館は大人のデートスポットにも変貌する。すると夜、自然と街に人の流れができて「街の回遊性」が生まれるのだ。それが都市の魅力を増やし、活力を高めることになる。決して訪日外国人のためだけではない。もっと本質的な「街の賑わい・活力を創る都市戦略」なのだ。

    各地の都市戦略で見られる共通の問題がある。それはハード偏重だ。ホールや美術館といったハードを整備することばかりが議論される。むしろ開演時間、閉館時間といったシステムを工夫するソフトこそ大事なのだ。

    ***

    美術館が人を惹きつける


    スペインにかつて鉄鋼で栄えた、屈指の工業都市のビルバオという町がある。鉄鋼業の衰退とともに町は一時寂れたが、町の活性化の一環として有名なグッゲンハイム美術館を誘致した。そのことによって今や見事に人気観光地として再生している。美術館の建物が斬新なデザインであるうえに閉館時間は平日でも夜8時で好評だ。訪れる観光客は週末だけではなく楽しめる。観光戦略としては当然の対応だろう。

    :

    ニューヨークの近代美術館(MOMA)では夏になると、夜、中庭でジャズの生演奏を楽しむ人々で賑わう。単に絵画の鑑賞だけにとどまらない、エンターティメントがあるのだ。この美術館のミュージアムショップはアートの魅力たっぷりの品々が陳列されて楽しいが、そういうわくわくする仕掛けを工夫している。

    また毎週金曜日の夜はフリー・フライデーナイトという入館料無料のプログラムが用意されている。これはユニクロがスポンサーとして契約しており、チケットはユニクロのデザインだ。

    こうして集客ビジネスとして随所にアイデア満載だ。

    :

    日本にも東京にある民間美術館で平日の夜9時、10時まで楽しめるところも出てきている。六本木、渋谷といった立地の特色を活かした経営戦略だろう。しかし地方の公立美術館では未だ硬直的なお役所仕事がほとんどだ。

    そういう中で異色なのが長崎県美術館である。公立美術館としては異例の夜8時閉館で、

    館内にある運河を見下ろすカフェではワインなど楽しむカップルの姿もある。美術愛好家からは多少抵抗もあったかもしれないが、「敷居を低くして、人の集い、くつろぐ場所」というコンセプトを明確にした戦略が多くの来訪者を集めている。

    * *

    美術館、博物館、コンサートホールなどまだまだ十分活かされていない資産は転がっている。特に「夜」という都市の魅力を高めるうえで大事な時間帯が活かされていない。そういう意味で閉館時間は大事な要素だ。ただそれだけでは十分ではない。その時間帯に楽しめる仕掛けづくりも併せて工夫する必要がある。

    それができていない原因はお役所仕事と「美術館とはこういうものだ」という固定観念だ。柔軟な発想でシステムを見直すだけでもっと集客ビジネスとして活きてくる。

    夜だけはBGMが流れる中でグラス片手に絵を鑑賞する。そんな型破りな美術館があってもいいのではないだろうか。美術鑑賞を汚すものとの受け止め方をする人も中にはいるだろうが、そういう人には昼間ゆっくり鑑賞していただいたらどうだろうか。

  • 2017年07月18日 [ コラム ]

    チーズと自動車に隠された日欧EPAの本質~米中を睨んだ国際ルール作りの思惑~

    日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)が、大枠合意に向けて交渉のヤマ場を迎えている。チーズ、ワイン、牛肉・豚肉などの農産物と自動車・自動車部品の関税引き下げを巡る攻防に関心が集まっているが、本質はそこにはない。米中という大国を睨んで、日欧共同の国際的ルールづくりだ。

    米国抜きTPPと同様に、日本が国際的なルール作りで主導権を握れるか

    日欧EPA交渉の本質はチーズや自動車の関税引き下げだけではない。

    日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)が、大枠合意に向けて交渉のヤマ場を迎えている。現在の焦点は、チーズ、ワイン、牛肉・豚肉などの農産物と自動車・自動車部品の関税引き下げを巡る攻防だ。もちろん国内産業に与える影響は大きく、また消費者の生活に直結して分かりやすいこともあって、メディアの報道はこの点に集中している。しかし、それだけに目が行って、日欧EPAの持つもっと本質的な意味合いを見失ってはならない。

    米国が環太平洋経済連携協定(TPP)離脱を表明して、日本の通商戦略における日欧EPAの重要性はますます高まっている。

    米国、中国のように自らの巨大な市場規模を背景にパワーゲームを展開できる国々と違って、日本にはルールに基づいて公正な競争が行われる環境が不可欠だ。つまり、ルール作りで主導権を発揮することが通商戦略の基本スタンスとなる。

    TPPはまさにそれを今後成長が期待されるアジア市場で具体化するものであった。米国が離脱しても米国抜きでのTPPを実現させようとする意味はそこにある。同時に同じ先進国同士として、EUとのEPAは今後グローバルなルール作りで日本が主導権を発揮するうえで大きな意味を持つのだ。

    日欧は規制・ルールで協力できる

    例えば、日欧EPAの中には、「規制に関する協力」が盛り込まれている。これは日欧の間で規制に関する基本的な思想が近いということが背景にある。

    この規定を受けて、今後、自動車の自動運転など規制当局間で基準についての擦り合わせなどが期待されている。IT業界主導の米国に対して、日欧は自動車業界が主導する意味でポジションは近い。

    化学物質の管理など様々な分野の規制で、日欧は事前審査、産業界との関係など似たアプローチを志向する。そういう意味で共通ルールを目指しやすい関係にあると言える。

    地理的表示の相互認証なども立場の近い日欧が協力できる分野だ。カマンベール・チーズ、ボルドーワイン、松阪牛など、歴史のある国ならではの強みを活かすためのルール作りだ。

    電子商取引のルールもTPPと同様に、先進国としてこの分野のルール作りを主導することはビジネスをグローバルに展開するうえで不可欠だ。EU内の加盟国間で経済の発展段階が違うことから、EU内の意見が分かれるので予断を許さないが、合意できれば大きな成果になる。

    「木を見て森を見ず」になってはならない

    こうした日欧の動きを注意深く見つめているのが米国企業だ。日欧主導のルール作りが先行することによって、将来におけるグローバルなルール作りでの交渉の地合いが悪くならないかが関心の向きだろう。こうした米国ビジネス界の関心は将来における米国のTPP復帰への誘因にもなり得るものだ。

    またRCEP(東アジア経済連携協定)の交渉においてもより質の高いものにするうえでプラスに作用するだろう。

    そうした多国間の枠組み同士の相互作用性を考えれば、日欧EPAの合意はグローバルなルール作りという日本の生命線を確保するうえで、大きな弾みをつけることに注目したい。

    チーズ、自動車といった個別品目の関税引き下げだけでなく、こうした本質的な意味にも目を向けた政治決断が求められる。まさに「木を見て森を見ず」にならないようにしたいものだ。

  • 2017年07月12日 [ コラム ]

    中国がほくそ笑む、トランプの独善

    5月のG7に続き、またもや米国トランプ大統領がかき回した今回のG20。トランプ大統領の国際協調など全く無視した主張の結果、孤立だけが目についた。貿易問題しかり、地球温暖化問題しかりだ。敢えて孤立を厭わないということだろうが、その結果、中長期的な米国の国益が損なわれていることに気づかないようだ。これはトランプ政権が未だ政府高官の重要ポストを任命できず、その結果、米国の外交戦略が極めて粗雑になっている結果だ。そしてこの事態をほくそ笑んで見ているのが中国だ。

    本来の責めを負うべきは中国のはずが・・・

    中国は本来、国有企業の貿易歪曲的な補助金や恣意的な輸入制限措置、高い関税など「保護主義のデパート」だ。巨大な中国市場を背景に、外国企業は差別的、不公平な競争条件に従わざるを得ない。各国は中国に是正の圧力をかけたいところだ。ところが米国のトランプ大統領が声高に保護主義的な発言を繰り返すことによって、各国の批判の矛先は米国に向わざるを得ない。その陰に隠れて中国への風圧は弱まってしまう。

    例えば鉄鋼問題がそうだ。

    問題の根源は中国による過剰生産だ。余剰の鉄鋼を大量に安値輸出している問題を是正しなければならないのは中国のはずだ。今回のG20首脳宣言でも早急な具体的な解決策の策定を関係国に求めているが、ねらいは中国に対して強い圧力をかけることだ。

    ところがこれに対してトランプ政権が通商拡大法232条による輸入制限の発動を振りかざしているのだ。これは自国の安全保障上の理由に基づいて発動するもので、中国だけを対象とするのではなく、日欧も巻き添えを食らう恐れがある。EUはこれに激しく反発して、これが発動されれば即座に対抗措置を講ずるとしている。その結果、世界貿易は報復合戦に陥る恐れがある。

    本来この問題は日米欧が結束して中国に対して圧力をかける問題である。それにもかかわらず、米国の鉄鋼輸入に対する保護主義的な手段に批判が集まり、日米欧の足並みが乱れているのだ。中国にとってトランプ政権の対応は願ってもない本質そらしで、これほどありがたいものはない。

    地球温暖化でも中国は“いい子ぶる”

    地球温暖化を防止するためのパリ条約では、日本、欧州など主な排出国はCO2の総量を減らす削減目標を出している。これに対して中国はどうか。

    中国のCO2の削減目標はGDP当たりの排出量の削減である。これは根本的に意味が違う。経済成長に伴って排出量が増えることを許容して、何ら痛みを伴わない。中国は世界最大のCO2排出国であるにもかかわらず、果たしてこれで国際的な責任を果たしていると言えるだろうか。

    それにも拘らず、中国は国際的に批判されてはいない。それどころか米国がパリ条約からの脱退を宣言したことから、米国が国際的に批判を受け、孤立している。これに対して中国は平然と地球温暖化に前向きな振る舞いで欧州と協調している。まさにしたたかに立ち回っているのだ。

    中国の米欧分断に日本はどう向き合うか

    こうしていずれも中国は国際的な批判の矢面に立つことなく、“中国問題”は米国と欧州の対立の構図の中にかき消されている。

    欧州と米国の間の亀裂は決して日本にとって望ましい状況ではない。しかし安倍総理が橋渡し役を果たせるような生易しい溝でもない。

    その結果が欧州と中国の接近が起こっている。これは日本がもっとも警戒すべき事態だ。

    AIIBの設立にも見られるように、日米欧を分断する作戦は中国の伝統的な「孫子の兵法」だ。また欧州は中国にとって先端技術の入手先として欧州は絶好のパートナーだ。特にドイツ企業の中国への食い込み方は各産業分野で顕著だ。欧州にとっても地理的に遠い中国は元来、自らの安全保障上の懸念を持つべき対象ではないことも背景にある。日本にとっては安全保障上見過ごせない問題だ。中国から見れば、兵法三十六計の「遠交近攻」ということにも通じる。

    こうした状況で、日本としては少なくとも経済面では欧州を繋ぎ止めておくことが必要だろう。先般大枠合意した日欧EPAはそうした戦略的な視点からも見るべきだろう。

  • 2017年07月10日 [ コラム ]

    「したたか中国」と「声高トランプ」が共存する危険~反保護主義が空しく響くG20~

    したたかな中国は「埋没」を決め込む

    *

    今回のG20において中国の存在感を出せず、「埋没感」というのが日本の新聞の評価だ。果たしてそうだろうか。

    むしろ中国一流のしたたかな計算から敢えて「埋没」したのではないか。

    中国は本来、国有企業の貿易歪曲的な補助金や恣意的な輸入制限措置、高関税など保護主義のデパートだ。ところが米国のトランプ大統領が声高に保護主義的な発言を繰り返す事態に直面して、各国の批判の矛先は米国に向かわざるを得ない。その陰に隠れて中国は問題にされずにいる。

    その典型例が鉄鋼問題だ。

    問題の根源は中国による過剰生産だ。余剰の鉄鋼を大量に安値輸出している問題を是正しなければならないのは中国だ。今回のG20首脳宣言でも早急な具体的な解決策の策定を要求されて、中国に対しては強い圧力がかかっている。ところがこれに対してトランプ政権がちらつかせているのが通商拡大法232条による輸入制限の発動だ。自国の安全保障上の理由に基づくだけに発動は中国だけを対象とせず、日欧も巻き添えを食らう恐れがある。EUはこれに反発して、発動されれば即座に対抗措置を講ずるとしている。そうすると世界貿易は報復合戦の嵐だ。

    本来日米欧が結束して中国への圧力を強化すべき問題なのに、米国の鉄鋼輸入に対する保護主義的な手段に批判が集まり、日米欧の足並みが乱れている。中国にとってこれほどありがたい事態はない。

    米国トランプ政権にもう少し中国のしたたかさがあれば、G20における1対19の構図での「1」の座は、米国から中国に入れ替わっていただろう。

    声高なトランプ大統領は着々と”成果“も

    *

    ただし、その米国も孤立しながらも、トランプ大統領が声高に主張し続けることによって着実に“成果”を出している面もある。

    5月のG7サミットでは、「保護主義に対抗する」との文言と引き換えに、「互恵的な貿易」との危険な言葉を盛り込ませることに成功したことは、以前指摘したところだ。今後この言葉を盾に、対米貿易黒字の相手国に対して「不公正」だと主張することが可能になるとの思惑だ。

    今回のG20では、さらに一歩進んで、「保護主義と闘う」と宣言文に明記するのと引き換えに、不公正な貿易相手国に対して関税引き上げといった「正当な対抗措置」を取ることを認めさせた。

    この結果、互恵的かどうかで公正さを判断して、相手国に対して保護主義的な対抗措置を取ることを正当化する道を開くことになる。

    こうして着実に保護主義へのお墨付きを“前進”させているのだ。反保護主義の抽象的・精神論的な文言より、余程実利があるのだ。

    駄々っ子のように声高に主張し続けるトランプ大統領。会議全体の結束・協調にために仕方なしに主張を受け入れる各国首脳。この構図はG7G20も変わらない。

    こうした文言の積み重ねが米国の現実の行動につながるだろう。それは世界に保護主義の連鎖という悪夢の結果をもたらすことになるのではないか。そこに危機感を持つべきだろう。

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