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  • 2017年09月19日 [ コラム ]

    読売新聞九州版 インタビュー記事(2017.8.15)

  • 2017年09月16日 [ コラム ]

    北朝鮮の経済制裁にどう向き合うか

    北朝鮮の挑発が相次ぐミサイル発射、核実験と先鋭化する中、国連安保理では新たな追加制裁の決議が採択された。ポイントは石油の禁輸という強力な措置が焦点であったが、予想通り中露の反対で、現状維持との中途半端なものにとどまって、少なくともこの点での効果は期待できないものとなっている。

    石油の禁輸は経済制裁の中でも最後の究極の手段と言われている。国民生活など人道上の問題も生じかねないからだ。今後、強化するにしても、人道上の供給は例外にして、抜け穴を作ろうとすることも当然予想される。

    また中国が「原油カード」を持っていること自身が北朝鮮への影響力があるように思わせる大事な要素だけに、対米交渉のうえで、このカードを手放すことはないだろう。中国にとって北朝鮮問題はあくまでも対米関係での重要なチップとしての位置づけなのだ。

    ****

    これに関連して、先日あるテレビ番組で、「経済制裁も石油の禁輸ばかり議論されているが、核、ミサイルの部品などに焦点を当てて規制すべきだ」とのコメンテーターの発言があって終わっていた。北朝鮮のミサイルにウクライナかロシアから流出したとみられるエンジンが使われていると報じられたからだろう。一見もっともらしい議論だが、どうも経済制裁のことを十分調べずに発言しているようで、そういう場面がメディアでしばしば見られることに驚かされる

    これまでの大きな流れを見てみよう。

    北朝鮮への経済制裁は2006年の第一回核実験に対する国連決議に始まった。実に10年以上の歴史がある。日本独自の措置はさらに98年にまでさかのぼる。

    国連決議では、まず北朝鮮のミサイル、核開発計画への関連物資の輸出の防止が決議された。

    その後、北朝鮮の相次ぐミサイル発射、核実験に伴って、経済制裁の内容を強化、拡大していった。対象をミサイル、核に限らず、すべての武器に広げ、実施されるように貨物検査も行うこととした。また同時に、開発計画に関連する個人・団体の資産も凍結されたり、カネの流れ、ヒトの入国へと次第に対象を広げていった。そして近年では経済制裁の目的も拡大して、開発のための資金調達の道を断つべく、外貨獲得源になっている石炭の輸入停止という流れをたどっているのだ。

    そうした流れをたどった上での石油の禁輸なのだ。ミサイル・核の部品は当初から当然制裁対象になっている。問題はそれが履行されているかどうかだ。特に一般加盟国以上に、安保理決議を行った当事者の常任理事国である中露の責任は重いはずなのに、そこに問題があるのだ。

    ***

    かつて私は経産省時代に北朝鮮の経済制裁、輸出管理に取り組んでいた。当時は中朝国境での物資の行き来は自由に行われ、東北部の人民解放軍に対する北京政府のコントロールも十分ではなかった。最近テレビ画像でもよく見られるミサイルの移動式発射台についても、これに改造するためのトラクターも中国から流入していたようだ。現在の状況は大きく変化しているであろうが、そういう土壌があることは常に注意しておくべきだろう。

    *

    また東南アジアの国々を巻き込んだ迂回輸入も要注意だ。

    というのも、当時私は北朝鮮が日本から規制物資を迂回輸入しようとしたのを摘発した経験を持つからだ。神戸港を出港した貨物船に積まれていたのは、核開発に使う遠心分離機に組み込まれる周波数変換器であった。タイのバンコクの民間企業がエレベーターの電流コントロールに使うとの申告で、これをバンコクで北朝鮮の調達エージェントが入手して、北朝鮮に持ち込む予定であった。当時タイでは輸出管理が厳格に行われていないことを狙ったものだ。この件ではバンコクに到着する前に、日本に積み戻させることができて事なきを得て、米国からも驚きをもって受け止められた。

    独自の諜報機関を持たず、情報を他国に依存することが多い日本がこうした迂回輸出を見抜くには地道な国際的なネットワーク力しかない。また北朝鮮は日本で考えられているほど国際的に孤立しているわけでもない。東南アジアの国々の中には北朝鮮との関係を維持している国も多い。この件もそういうことを利用したもので、氷山の一角かもしれない。

    *

    先のコメンテーターの発言に戻ろう。発言内容はおそらく誤解によるもので、ミサイル、核の関連部品は当然すでに制裁対象になっている。ただしそれが十分遵守されていないのも事実だ。

    制裁対象を石油の禁輸などに拡大することももちろん大事だが、それだけでなく、すでに制裁対象になっているコアの部分の実効性を上げるために、中露、東南アジアなどにいかに遵守させるかも併せて手を打たなければ意味がなくなる。そういう日本の外交力が問われているのだ。その点で、先般の河野外務大臣の中東訪問時での働きかけは高く評価できる。

  • 2017年08月09日 [ コラム ]

    今秋、直面する通商交渉の大バトルにどう向き合うべきか

    『今秋、これまでに積み残してきた通商問題の課題に、日本政府は一気に取り組むことになる。米国抜きTPPTPP11)、RECEP、日米経済対話、日欧EPA……。高いハードルを乗り越えるには、外務省主導の従来型の交渉スタイルではなく、官邸主導の“TPP型”の布陣を組み、本気度を示すことが欠かせない。』

    ****

    この秋、通商分野がダイナミックな動きになりそうだ。具体的に挙げてみよう。

    1. 米国抜きの環太平洋経済連携協定(TPP11)については、11月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会合で方向性を固めることになる。それに向けたカギとなるのが、「米国抜き」に難色を示すベトナム、マレーシアなどのメンバー国を日本が主導して説得することができるかどうかだ。TPP11の結束を維持できるかどうかは日本のリーダーシップにかかっている。

    2. 東アジア経済連携協定(RCEP)については、どこまでのレベルのものにするかを巡って、日中間の綱引きが展開されている。この秋の閣僚会合が勝負どころだ。早期妥結を望む東南アジア諸国連合(ASEAN)各国を説得して、日本が目指す非関税分野も含めた、質の高い内容に誘導していけるかどうかの正念場を迎える。

    1. 日米関係では、11月のベトナムでのAPEC首脳会合の前後にトランプ大統領が訪日する可能性が高い。そうなると、その前の10月に開かれる日米経済対話において、日米間の摩擦の種をマネージすることができるかが大事だ。米国畜産業界の不満などを背景に、2国間の自由貿易協定(FTA)を求める米国からの圧力が高まる中、これにどう対処するか。

    1. 大枠合意した日欧経済連携協定(EPA)も、紛争処理メカニズムなど課題が未解決である。これらの積み残しの難題を解決して最終合意に至ることができるか。

    これらは相互に密接に連動している。TPP11が結束できそうならば、RCEPもより質の高い内容を求めやすくなる。将来米国がTPPに戻ってくる受け皿が用意できそうならば、米国の産業界をTPPへの復帰を志向する可能性も出てこよう。日欧EPAの合意は、欧州との競争不利を避けようとする国々に対してはTPP11への誘因にもなる。

    いずれにしても日本政府は、こうした全体像を俯瞰して、この秋からの通商戦略を立てることが必要である。そのためには、日本政府としても各省バラバラ、各テーマバラバラではなく、司令塔がしっかりとした組織体制を作ることが不可欠だ。

    そういう視点で今回の内閣改造と官僚の幹部人事を評価してみたい。

    ***

    伝統型からTPP型に通商交渉をシフトせよ

    これまでの通商交渉では、伝統的に外務省が各省の取りまとめをして交渉してきた。しかし、これでは経産省、農水省など対等の役所同士の協議となって、外務省に効果的な調整を期待できない。

    外務省も相手国との交渉をまとめることを最優先にすることから、各省からは弱腰の交渉姿勢に映り、外務省に対しては当然疑心暗鬼になる。政府として一体感からはほど遠いケースもこれまでもしばしば見られた。そうした状況から、昔から米通商代表部(USTR)を倣って、「日本版USTR」を創設せよとの意見もあったほどだ。

    こうした中、TPPは重要性が格段に大きいことから、安倍内閣になって特別の体制を作ることとなった。まず総理から全権委任を受けた甘利経済財政担当大臣が担当した。そしてその下に内閣官房に鶴岡首席交渉官をはじめ各省から100人規模の精鋭部隊が派遣されてチームを組んだ。日本の通商交渉の長年の課題であった、「司令塔不在」「縦割りの弊害」から脱却することが狙いだ。

    大臣自らの国内調整での重みと交渉相手への気迫、更には、チームとして同じ船に乗っているとの一体感があったと証言する者も少なからずいる。日本の通商交渉の歴史上特筆すべき布陣だろう。その結果、日本がTPP交渉に参加してからは、その出遅れを一気に挽回した。日本が交渉の取りまとめで主導権を発揮し、他国から「日本がいないとTPPはまとまらなかった」とまで言わしめることとなった。

    ***

    日欧EPAでは最終局面まで本気度が足りなかった

    それに対して日欧EPAではどうだったか。

    実は当初から日欧EPAに関しては、日本、欧州連合(EU)双方ともに優先度が低かった。そこで日本側もTPPと違って、伝統的な外務省取りまとめ方式での交渉体制であった。率直に言って、4年間交渉に顕著な進展がなかったのは、交渉への本気度が足りなかったからだろう。

    状況が大きく一変したのが今年に入ってからだ。きっかけは、トランプ大統領による、TPP離脱表明と英国のEU離脱だ。保護主義への歯止め、EUの結束など政治的な思惑が日、EU双方を急速に合意に向かわせたのである。

    しかもG2020カ国・地域)での首脳レベルの政治的メッセージを狙って、G20を期限とするゴールの設定で双方の首脳の思惑が一致したことも大きい。日本でも官邸の強い意向を受けて、外務省もやっと本気で動き始めた。大枠合意はこうした政治状況の変化と政治的決断とによるものなのだ。それがなければ、伝統型の通商交渉の問題点を引きずったままで交渉が漂流しかねないのが実態であった。

    ***

    日欧EPAはチーズも自動車も今一歩か

    それは妥結結果に見て取れる。大枠合意した日欧EPAで最後まで交渉の焦点だったのが、チーズと自動車だった。日本国内では、「自動車のためにチーズで譲った」と評する向きもある。果たしてそうだろうか。実態は外務省による「総合調整の深掘り」が十分なされないまま、早期妥結を優先したようだ。その結果、自動車のゲインもチーズのロスもそこそこの、双方が合意しやすい内容になっている。

    EU側の関心事項であったチーズの関税削減を見てみよう。

    カマンベールやモッツアレラなどソフト系チーズについて新たに低関税輸入枠を設定した。この枠内での関税率を徐々に削減して、16年目に撤廃する。その輸入枠は初年度2万トンから16年目に31000トンに拡大する。低関税での輸入枠が現在の2万トンから1.5

    倍に拡大するだけなので、影響は小さい。

    他方で、日本側関心の自動車はどうだろうか。韓国車は既にEUとの間で2016年から関税が撤廃されている。それを背景に猛烈な販売攻勢を欧州で繰り広げ、シェアが着実に増えている。日本メーカーの危機感から、日本政府にとって自動車が最大の焦点となっていた。結果は、EUが日本車に課している現在の10%の関税を、段階的に引き下げて8年目で撤廃するというものだ。

    確かに関税撤廃で韓国車との競争条件が対等になることは日本の自動車業界の長年の念願で、大いに評価できよう。確かに10%の関税がなくなるのは大きい。ただしそれが8年後というは遅すぎないか。自動車業界の熾烈な競争を考えると、この先8年の間にも韓国車はシェアを確実に伸ばしてくるだろう。確かにTPPでは米国の関税撤廃が25年であることに比べれば短いが、米国の関税は2.5%だ。それに比べEUは10%と高関税で、価格への影響は格段に大きい。

    最近は英仏が 2040年にはガソリン車やディーゼル車の販売を禁止する方針を打ち出したり、自動運転技術が加速的に進展したり、自動車産業を巡る変化のスピードはかつてとは比較にならないほど速い。米テスラや米グーグル、米アップルなどが自動車分野に相次いで参入しており、技術革新の激しいエレクトロニクス業界のそれにも匹敵するぐらいだ。8年も経てば業界の状況も恐らく激変しており、今回の合意内容がどこまで効果を発揮するか、かなり微妙だろう。

    分野ごとの交渉としては最大限の努力の成果であろうが、仮に交渉体制、交渉プロセスが「総合調整志向のTPP型」であったならば、もう一歩深掘りした違った結果を引き出せたのではないだろうか。

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    この秋、通商の新布陣の本気度が試される

    問題は、これから本格化する通商問題の“秋の陣”だ。通商交渉の正念場を迎える日本は、TPP型の交渉体制を作ることが不可欠だ、と官邸も強く意識している。今回の内閣改造で任命された茂木新大臣の国際交渉力も期待されており、内閣官房には各省からの精鋭も再び呼び集められているようだ。日米経済対話についても、今回の各省の人事異動で、麻生副総理のもとに、財務、経産、外務からそれぞれかつての麻生内閣時に秘書官として麻生氏に仕えた次官級が勢ぞろいすることとなった。

    ただし、これら人材の配置という布陣は必要条件ではあるが、十分条件ではない。

    官邸の本気度があってはじめて、茂木・麻生両大臣の本気度につながり、それがそれぞれの官僚チームの一体感を生む。これがTPP交渉、日欧EPA交渉の教訓ではないだろうか。この秋は、この教訓を活かした戦いができるかどうか、注目される。

  • 2017年07月22日 [ コラム ]

    美術館はなぜデートスポットにならないのか?

    先日の新聞報道によると、観光庁、文化庁は訪日客をもっと増やすために、美術館、博物館の閉館時間を延長する取組みに力を入れるという。既に延長している美術館もあるが、さらに拡大していきたいとのことである。外国人観光客から要望も多いからだという。

    もちろん大変いいことではある。ただし訪日客の誘致が目的であっていいのだろうか。また閉館時間を延長するだけでいいのだろうか。

    もっと本質的なことを忘れてはならない。それは何か。

    ***

    街の賑わいを創る発想とは


    日本の国公立美術館では閉館時間を午後5時か6時にしているところが多い。これはいわゆる「お役所仕事」だからだろう。私は10年以上前から、せめて金曜の夜ぐらいは閉館時間を夜9時にしてはどうか、と言い続けてきた。それだけではない。コンサートホールもそうだ。コンサートの開演時間も日本は午後6時か6時半だが、欧米のように夜8時にしてはどうか、とも提唱してきた。

    その理由はこうだ。

    :

    平日のコンサートホールでは奥さま族ばかり楽しんでいるというのは日本独特の光景だ。そこで開演時間を遅らせると、会社帰りのビジネスマン、ビジネスウーマンも楽しめるようになる。欧米のようにコンサート開演前にプレ・シアター・ディナーも楽しんでからコンサートに行くことも可能だ。結果的に街での消費も喚起される。

    閉館時間が遅い美術館は大人のデートスポットにも変貌する。すると夜、自然と街に人の流れができて「街の回遊性」が生まれるのだ。それが都市の魅力を増やし、活力を高めることになる。決して訪日外国人のためだけではない。もっと本質的な「街の賑わい・活力を創る都市戦略」なのだ。

    各地の都市戦略で見られる共通の問題がある。それはハード偏重だ。ホールや美術館といったハードを整備することばかりが議論される。むしろ開演時間、閉館時間といったシステムを工夫するソフトこそ大事なのだ。

    ***

    美術館が人を惹きつける


    スペインにかつて鉄鋼で栄えた、屈指の工業都市のビルバオという町がある。鉄鋼業の衰退とともに町は一時寂れたが、町の活性化の一環として有名なグッゲンハイム美術館を誘致した。そのことによって今や見事に人気観光地として再生している。美術館の建物が斬新なデザインであるうえに閉館時間は平日でも夜8時で好評だ。訪れる観光客は週末だけではなく楽しめる。観光戦略としては当然の対応だろう。

    :

    ニューヨークの近代美術館(MOMA)では夏になると、夜、中庭でジャズの生演奏を楽しむ人々で賑わう。単に絵画の鑑賞だけにとどまらない、エンターティメントがあるのだ。この美術館のミュージアムショップはアートの魅力たっぷりの品々が陳列されて楽しいが、そういうわくわくする仕掛けを工夫している。

    また毎週金曜日の夜はフリー・フライデーナイトという入館料無料のプログラムが用意されている。これはユニクロがスポンサーとして契約しており、チケットはユニクロのデザインだ。

    こうして集客ビジネスとして随所にアイデア満載だ。

    :

    日本にも東京にある民間美術館で平日の夜9時、10時まで楽しめるところも出てきている。六本木、渋谷といった立地の特色を活かした経営戦略だろう。しかし地方の公立美術館では未だ硬直的なお役所仕事がほとんどだ。

    そういう中で異色なのが長崎県美術館である。公立美術館としては異例の夜8時閉館で、

    館内にある運河を見下ろすカフェではワインなど楽しむカップルの姿もある。美術愛好家からは多少抵抗もあったかもしれないが、「敷居を低くして、人の集い、くつろぐ場所」というコンセプトを明確にした戦略が多くの来訪者を集めている。

    * *

    美術館、博物館、コンサートホールなどまだまだ十分活かされていない資産は転がっている。特に「夜」という都市の魅力を高めるうえで大事な時間帯が活かされていない。そういう意味で閉館時間は大事な要素だ。ただそれだけでは十分ではない。その時間帯に楽しめる仕掛けづくりも併せて工夫する必要がある。

    それができていない原因はお役所仕事と「美術館とはこういうものだ」という固定観念だ。柔軟な発想でシステムを見直すだけでもっと集客ビジネスとして活きてくる。

    夜だけはBGMが流れる中でグラス片手に絵を鑑賞する。そんな型破りな美術館があってもいいのではないだろうか。美術鑑賞を汚すものとの受け止め方をする人も中にはいるだろうが、そういう人には昼間ゆっくり鑑賞していただいたらどうだろうか。

  • 2017年07月18日 [ コラム ]

    チーズと自動車に隠された日欧EPAの本質~米中を睨んだ国際ルール作りの思惑~

    日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)が、大枠合意に向けて交渉のヤマ場を迎えている。チーズ、ワイン、牛肉・豚肉などの農産物と自動車・自動車部品の関税引き下げを巡る攻防に関心が集まっているが、本質はそこにはない。米中という大国を睨んで、日欧共同の国際的ルールづくりだ。

    米国抜きTPPと同様に、日本が国際的なルール作りで主導権を握れるか

    日欧EPA交渉の本質はチーズや自動車の関税引き下げだけではない。

    日本と欧州連合(EU)の経済連携協定(EPA)が、大枠合意に向けて交渉のヤマ場を迎えている。現在の焦点は、チーズ、ワイン、牛肉・豚肉などの農産物と自動車・自動車部品の関税引き下げを巡る攻防だ。もちろん国内産業に与える影響は大きく、また消費者の生活に直結して分かりやすいこともあって、メディアの報道はこの点に集中している。しかし、それだけに目が行って、日欧EPAの持つもっと本質的な意味合いを見失ってはならない。

    米国が環太平洋経済連携協定(TPP)離脱を表明して、日本の通商戦略における日欧EPAの重要性はますます高まっている。

    米国、中国のように自らの巨大な市場規模を背景にパワーゲームを展開できる国々と違って、日本にはルールに基づいて公正な競争が行われる環境が不可欠だ。つまり、ルール作りで主導権を発揮することが通商戦略の基本スタンスとなる。

    TPPはまさにそれを今後成長が期待されるアジア市場で具体化するものであった。米国が離脱しても米国抜きでのTPPを実現させようとする意味はそこにある。同時に同じ先進国同士として、EUとのEPAは今後グローバルなルール作りで日本が主導権を発揮するうえで大きな意味を持つのだ。

    日欧は規制・ルールで協力できる

    例えば、日欧EPAの中には、「規制に関する協力」が盛り込まれている。これは日欧の間で規制に関する基本的な思想が近いということが背景にある。

    この規定を受けて、今後、自動車の自動運転など規制当局間で基準についての擦り合わせなどが期待されている。IT業界主導の米国に対して、日欧は自動車業界が主導する意味でポジションは近い。

    化学物質の管理など様々な分野の規制で、日欧は事前審査、産業界との関係など似たアプローチを志向する。そういう意味で共通ルールを目指しやすい関係にあると言える。

    地理的表示の相互認証なども立場の近い日欧が協力できる分野だ。カマンベール・チーズ、ボルドーワイン、松阪牛など、歴史のある国ならではの強みを活かすためのルール作りだ。

    電子商取引のルールもTPPと同様に、先進国としてこの分野のルール作りを主導することはビジネスをグローバルに展開するうえで不可欠だ。EU内の加盟国間で経済の発展段階が違うことから、EU内の意見が分かれるので予断を許さないが、合意できれば大きな成果になる。

    「木を見て森を見ず」になってはならない

    こうした日欧の動きを注意深く見つめているのが米国企業だ。日欧主導のルール作りが先行することによって、将来におけるグローバルなルール作りでの交渉の地合いが悪くならないかが関心の向きだろう。こうした米国ビジネス界の関心は将来における米国のTPP復帰への誘因にもなり得るものだ。

    またRCEP(東アジア経済連携協定)の交渉においてもより質の高いものにするうえでプラスに作用するだろう。

    そうした多国間の枠組み同士の相互作用性を考えれば、日欧EPAの合意はグローバルなルール作りという日本の生命線を確保するうえで、大きな弾みをつけることに注目したい。

    チーズ、自動車といった個別品目の関税引き下げだけでなく、こうした本質的な意味にも目を向けた政治決断が求められる。まさに「木を見て森を見ず」にならないようにしたいものだ。

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